「最新の議論」ってあるの?

既報のとおり、クリント・イーストウッド監督、メリル・ストリープ主演で、南京事件を題材にした映画が製作されるらしい(どの程度確定的なのかはわからないけど)。


それがお気にそぐわない産経抄の小言。


産経ニュース

歴史的検証に耐えうる証拠や資料が少なく、犠牲者三十万人というとんでもない説から、まぼろし説まであるこの事件がどんなふうに脚色されるのか正直、不安はぬぐえない。製作はすでに決定済みというなら、せめて最新の議論をよく取材した上で作ってほしい。



「従来あったとされてきた南京事件だが、最近ではもっと小規模だった(あるいはなかった)との議論があるからそれを取材しろ」という産経的主張なんだろうと思うけど、僕は、「最新の議論」という言葉に引っかかりを覚えてしまう。


「最新」という言葉には、何処かしら先進性や真実性が付託されているイメージがある。「最も新しい議論なのだから、一番研究が進んでいるのだろうし、真実に近いのだろう」というイメージ。僕はこの記事を読んでいて、産経が「最新」という言葉が持つイメージを利用して、「南京事件は小規模だった(なかった)」という自分達の主張に正当性を付与しようとしている印象がどうしても拭えなかった。


意図的なものかはわからないし、他メディアも多かれ少なかれこの様な操作をしているのだろうけど、僕がもう一つ引っかかりを感じたのは、歴史学界では南京事件はほとんど論争になっていない印象があるので、「そもそも彼らが主張する様な『最新の議論』っていうものは果たしてあるのか」という事だった。


クリント・イーストウッドが監督をやるとして、最近の研究状況について取材を行うとしても、一般の歴史学者の方々に取材をしに行ったら、その時点で完全に産経の期待は空振りに終わってしまう。取材の対象を極めて選ぶ「最新の議論」って一体何なんだろう。