平野啓一郎さんのW杯に関する文章を読んで思ったこと



昨日、僕が取っている新聞で、平野啓一郎さんがW杯について書かれていて、その文章が非常に面白かった。

ところが、どうもその辺から様子がおかしくなってきた。第二戦のクロアチア戦前には、初戦の戦いぶりから、今回のワールドカップはダメだろうという諦めムードが兆す一方で、テレヴィの報道は、どうにか世論を掻き立てようとするかのような奇妙な熱を帯び始めた。
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今まで誰もマジメに考えてもみなかったブラジル戦の勝利が、奇跡の到来を信じるかのように、狂騒的な調子で語られ始めたのである。
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その国民の熱気の方が気になった人は、「どうして日本が、なかなかあの戦争を止められなかったのかが、分かった気がした」と冗談交じりに語った。また、報道の方が気になった人は、「最後は殆ど「大本営発表」みたいだったな」と苦笑交じりに語った。



僕は、学生の時に、バレーボールをしていたので、今でもよくTVで国際試合を見るけど、男女とも世界のトップから堕ちて久しいから、最初の方の試合だけちょっと勝って、後は強豪国に果てしなく負けていくパターンを見るのが本当に多くて、そういうのを繰り返して見ていると、「日本はこの試合が勝負です!」(そして大抵の場合はその試合に惨敗する)というTVのアナウンサーの煽りが段々と白々しく聞こえてくるようになった。


スポーツ試合の応援なんて、結局はそのチームに肩入れできる何かがあるか次第だと思うけど、W杯の報道ぶりに、バレーボール的煽りに似たものを感じていた僕は、何だか当初から白けてしまっていて、今回のW杯の日本戦はほとんど見る気になれなかった。


なので、「クロアチアはブラジルにいい試合をしましたが、クロアチアは強いチームに強いだけなんです。だから日本は勝てます!」とか、「ブラジルは、決勝進出を決めて、控え選手が出てくるので、日本は行けます!」とかいう報道に、僕は完全にしらけてしまって、サッカーや国別対抗戦にはほとんど関心がない妻と、役所広司のごとく「戦わなきゃ現実と!」とTVに突っ込んだり、上の平野さんの文章にあるように、「こうやって日本は戦争に負けていったのかな」という会話を交わしたりしていた。


僕も、熱狂できる時にはスポーツに熱狂してしまう人間だし、勿論こうしたスポーツ報道の煽りを、戦時中のそれと一緒にしてしまうのは、それこそ「シュートを打たないFWの原因を日本の教育に求める」ようなものかもしれないけど、TVで流れていた、揃いも揃ったあの異様なプラス思考は、平野さんが上記の文章で指摘されていた、「煽ることにより関心を持続させ、スポンサーに利益をもたらす」という経済的動機や、スポーツ報道は一種のエンターテインメントだからという理由に回収されきれない何かがあるようで、今思い返してもやっぱり少し不気味な感じがする。