黒字=財政好転という物語

一度作ってしまった「物語」を崩すことは難しい - 国家鮟鱇
上記の記事を読んで、ふと常々気になっていた「物語」について書きたくなりました。と言っても、最近よく書いている大阪府の話です。橋下知事になって「大阪府が黒字になった=財政が好転した」という「物語」。


なぜ、これが「物語」かと言いますと、大阪府の隣の京都府知事が記者会見でよく説明されているのですが、地方公共団体の予算や決算には、そもそも「黒字」や「赤字」の意味はあまりないと思われるからです。
京都府 知事会見 平成19年7月23日

実は記者会見で何度も言っているのですけれども、この黒字額はあまり意味がない。正直言いまして、何年連続黒字だからというのはあまり意味がないということをずっと申し上げております。なぜかと申しますと、地方公共団体の黒字というのは借金をしても黒字になる、基金を取り崩しても黒字になるわけです。皆さんの家計で借金をしたら黒字だという家計はないと思うのですね。どこかからお金をたくさん借りたら黒字になりましたという人はいないと思いますので、赤字、黒字というのは、地方公共団体の会計としては実は大きな意味はないと思います。

ただ、夕張市のような赤字がなぜ問題かと申しますと、要するにもう金を貸してくれるところがなくなった。こういう時はやはり夕張市のような赤字になるわけです。

地方公共団体が赤字になるのは3つの場合しかない。一つは、今言ったようにどこも金を貸してくれなくなり、本当に破産をした場合。もう一つは、職員に対して、または府民・市民に対して危機意識を持たせるために赤字にする場合。あとは計算間違いではないかということをよく皮肉まじりに言っています。



例えて言えば、今月20万円の給料があって、25万円使ってしまったが、友人から10万円借りていたので、現在5万円残っている様な場合、地方公共団体の会計上は、(借金を含めた)収入ー支出で計算するため、この様な場合でも5万円の「黒字」になってしまうので、本当にこれ以上借金が出来なくなった夕張市の様な場合を除いて、黒字、赤字の意味は殆どないという話です。勿論、大阪府夕張市の様にこれ以上借金ができなくなっていれば問題なのですが、大阪府の実質公債費比率は16.6%で、起債に国の許可が必要となる18%を下回る健全な数値で、実質公債費比率が40%近くの夕張とは全く状況が異なります。


以前、大阪府が黒字になったという報道がされた時、ブクマで橋下知事が大絶賛されましたし、今年度の予算も黒字という事で「結果を出している」とこちらも評価されたわけですが、結局は、それ自体はあまり評価の対象にならない、意味のない事で評価(絶賛)をしてしまっているという事ですね。借金すればいくらでも黒字にする事が可能なのですから。それよりは、府債の総額や歳出規模を踏まえて判断しないといけないのではないかと思うのですが、そこまで確認した上で橋下知事を評価している様にも思えません。それなら、現在府債の総額が5兆2500億円に増えていることが、ある程度は問題視されているはずですから。


あと、「大阪府は夕張の一歩手前だ」とかよく言われていたわけですが、上にあげた実質公債費比率も夕張市大阪府は全く違いますし、大阪府が財政指標として挙げている数値を見ますと、大阪府は他の数値も健全な数値を保っているわけで、とても夕張市と同一視できるようなものではありません。明日にでも破綻する様な大阪府の財政状況の悪さというのも、これも「物語」だったのではないかと考えています。「夕張の一歩手前だった大阪府を黒字化させた」と橋下知事を評価するのであれば、それは二重の「物語」を信じてしまっているのではないかと思うのです。